火宅の後 | 猫の会

火宅の後

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火宅の後

2014年10月22日(水)~26日(日)
戯曲:北村耕治
演出:北澤秀人
場所:下北沢 「劇」小劇場

出演

高田裕司
川崎桜
杉山薫(シグナルズ)
尾倉ケント
畑雅之(オックスフォードパイレーツ)
青木柳葉魚(タテヨコ企画)
徳元直子(劇団ぐるぐる牛)
保倉大朔(unclejam)
牧野達哉(銀鯱マスカラス)
ほりすみこ
贈人

スタッフ

舞台監督:橋本慶之
照明:高山晴彦
音響:天野高志/五十川由佳
宣伝美術:土谷朋子(citron works)
映像制作:高橋敦
方言指導:森内美由紀(青年団)
制作:北村耕治
企画製作:猫の会

おはなし

火宅の人という小説がありまして。
昭和最後の無頼派と呼ばれた文豪、檀一雄の遺作にして代表作です。

流行作家が若い女優にメロメロになって、家族をほったらかしてあちこち放浪するという多分に作者の現実を反映したお話でして、
作者の死後、読売文学賞と日本文学大賞を受賞して売れに売れた一作です。

売れに売れた、といいましても。
おそらく、決してよく出来た小説ではないのだと思います。
受けつけないひともきっとたくさんいるでしょう。
檀に比して、太宰や安吾のほうが名を残していることだって頷けます。

ところがこの小説は私をつかまえて離さない。
晩年病に倒れ、死の淵にあってもなお彼を小説家たらしめていた何かに。
十数年前のある日はじめてその頁を繰って以来、今も惹かれ続けています。

「火宅の後」は、その火宅の人を執筆していた頃の檀一雄先生を想って書きました。

猫の会による、ゆるくてやさしい昭和無頼派評伝劇です。

どうぞよろしく。

猫の会主宰 北村耕治

●webCM vol.1

●webCM vol.2

●webCM vol.3

舞台写真

火宅の後・舞台写真

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檀一雄は私の人生においてもっとも大切な作家のひとりです。
太宰治や坂口安吾と深い親交を結び、いつも原稿の催促に追われながら恋に旅にと奔放な生活を重ね、最後の無頼派と呼ばれた小説家です。個人情報だのコンプライアンスだの、みんながみんなくだらないことばかりいう今の世の中じゃもう現れない種類のひとでしょう。

偉丈夫で知られた彼はよく「いずれ諸君には80歳にして現役の無頼派をお目にかけましょう」とうそぶいていたそうです。だけど1976年、私が生まれる少し前に亡くなってしまいました。

猫の会はたいがいそうなんですが、この劇も何年も前から少しずつ準備してきました。準備をしてはいましたが。ずっと、いつ人前に出せるかなんて見当もつかなかった。彼を扱うなら、もっと機を見て力をたくわえてからとかなんとか、いつも何かの言い訳しながら、檀先生だったらこんなときなんて言うだろうと浮かんでは消えていく台詞のしっぽを捕まえたり逃がしたりするようなことを続けていました。

2013年、あるきっかけで腹が決まって。
そこからはあっという間でした。

劇場をおさえて、演出家をくどいて、資料を本格的に集めはじめました。檀先生が最後の時間を過ごした福岡の能古島へと2回にわたって足を運びました。ここでつながり広がった数々の御縁は生涯忘れません。様々な方々の助力を得て、知るほどに考えるほどに物語が揉まれてうねっていきました。

そうして書き上げた本作は、猫の会の新境地と評されご好評をいただきました。心を砕いて、尽力してくださったスタッフ各位と出演者たちのおかげです。

いわずとしれた本作のモチーフ「火宅の人」の登場人物のモデルとなった方々にも観て頂くことができました。大好きな作家の書いた小説に影響を受けて戯曲を書いて、それをまた小説の登場人物たちに観て頂けたのです。この循環!

もしも檀先生が80といわず90、100と歳を重ねていたら。もしも火宅の人の続編のようなものが今に至るまで続いていたら。あるいは「貧乏な演劇青年にいいかげんな劇を作られたんだヨ」なんて叱って頂けたのかもしれません。なんてね。